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Agile Requirementsと「実施可能要件」

アジャイル開発で仕様をどこまで詰めるのか、あるいはどの程度詳細にドキュメント化すべきなのかというのは、よく議論になるポイントです。シンプルなWebアプリケーションなどであれば、カードや付箋に記述されたユーザーストーリーと受入条件で十分かもしれませんし、医療系のシステムで人命に関わるようなものであれば、より詳細な仕様の記述や入念に作り込まれたプロトタイプが必要になるかもしれません。 この点について、Jeff Sutherland氏が知的財産権や特許などにおける「実施可能要件」("Enabling Specifications")を引き合いに出して説明する記事を書いています。 "Enabling Specifications: The Key to Building Agile Systems" "Enabling Specifications"とはどういうことかというと、この記事で引用されているのを転載すると、
2-231 Obtaining Patent Rights § 2.07[6] "A patent specification is enabling if it allows a person of ordinary skill in the art to practice the invention without undue experimentation."
ということになります。 日本では、特許法第36条第4項において、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなくてはならないとしています。 アジャイル開発における仕様のドキュメント化においても、この考え方を援用して適切なレベルの仕様の詳細化(これは文書化されないPOとの会話も含む)およびドキュメント化を行うことにより、ベロシティを極大化することができる(はず)というのがこの記事のポイント。 実際に、じゃあ、どれくらい書けばいいの?というところについては、非常にざっくりとした書き方ですが、メジャーな機能については3〜5ページくらいってところですかね。 このあたり、どこまで実際にドキュメント化するかという話については、元記事に対するコメント欄でのTobias Mayer氏とJeff Sutherland氏とのやりとりを参考にすると良いでしょう。

Agile TransformationのGolden Circle

InfoQで、Jean TabakaのGOTO Aarhus 2011 Conferenceでの講演のビデオとスライドが公開されています。 InfoQ: The Golden Circle – Why How What これは、一言でいうとSimon Sinekの"Golden Circle"(そして、"Start with Why")の考え方を組織におけるAgile Transformationの文脈に置き換えて説明したものです。なので、上のInfoQのビデオを観る前に、是非一度、Simon SineckのTED講演のビデオを観ておくことをお勧めします。 Simon Sinek: How great leaders inspire action 日本語字幕付きが良ければ、こちらに   「サイモン シネック: 優れたリーダーはどうやって行動を促すか」 で、話をJean Tabakaの方に戻しますと、昨年のAgile2011 Conferenceでも彼女のセッションがあり、このGolden Circleの話をワークショップ形式で行ったようです。それについては、彼女にムーンウォークをレクチャしたという(笑)牛尾さんがブログに少し紹介記事を書かれています。 メソッド屋の日記: Agile2011レポート2〜セッションまとめ続き〜 (ちなみに、この文章の中では"How"と"What"が入れ替わっているような気が…w) 詳しい内容はビデオを観ていただくのが一番ですが、ここでポイントとなるフレーズのみ簡単にメモしておきます。
- Why = Vision - Why is our gut - Why has emotion and heart - Why gives us purpose, cause, belief - Why creates commitment to something bigger than ourselves - Agile transformations must start with a visionary Why - How = Mission - How brings us guiding principles - How has logic and a bias toward action - How provides the infrastructure of intention - A Why needs a How - What = Results - What is dynamic, organic - You can't have What without a Why and a How - Start with your personal Why - Seek the heart and meaning in your organizational Why
なお、前回のエントリでもWhy/What/Howについて書いていますが、前回の文脈ではHowがWhatの実現手段となっているのに対して、今回はHowがWhyの実現のためのプリンシプルであり、Whatが結果としてのプラクティスになっていることにご注意くださいませ。念のため。

"What"と"How"の分離の罠とコラボレーション・スペース

みなさんも今まで、戦略などについてロジカルに考えさせられる研修で「WhatとHowを分けて考えなさい」と言われたり、ビジネスの現場で「うちにはHowを語れるやつは多いけどWhatを語れるやつがいない」とか聞かされたことがあるのではないかと思います。また、Scrumの世界においても、「Whatを決めるのがプロダクトオーナーでHowを決めるのがチームである」というようなことが言われることもあります。 確かに、その考え方も一理あるのですが、現実を見ると、プロダクトオーナーだけでWhatが決められるケース(そんなプロダクトオーナーがいるケース)は少ないのではないでしょうか。また、特に高度なテクノロジー絡む場面においては、実装レベルのHowの知識がないと本当に価値のあるWhatが描けないということも増えてきています。 このあたりをどう考え、どう説明するのかについては、私自身もなかなかきれいに説明できていなかったのですが、Tobias Mayer氏が2011年のLondonでのScrum Gatheringのセッションで使った資料にちょうど良い部分がありましたので紹介しておきます。 資料のPDFは、以下のページで見ることができます。 "Dogma-free Scrum" by Tobias Mayer # 本稿で引用している図表は全て上記のPDFからの抜粋です。 この中で、彼は"Collaboration Space"の重要性を説いています。これは物理的な意味とメンタルな意味の両方を指しています。 まず、Scrumにおけるバックログのモデルとして、彼は以下のような構図を示しています。ここでは、プロダクトオーナーが"Who"と"What"と"Why"を決めてリクエストを行い、それに基づいてチームが"How"を決めてリクエストに応える…という形になっています。ある意味、これはWhatとHowの分離です。 

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しかし、これではプロダクトオーナーのリクエストはうまく伝わりません。そこで、彼はRequest/Response Modelで、Why-What-Howの三層構造を提示します。このモデルでは、リクエストする側は"Why"を徹底的にクリアにします。どういう理由で、誰のために、どんな価値が、…といったことをです。そして、それをもとにしてRequesterとResponder/sがコラボレーションスペースで協調的にWhatを導きだすわけです。 

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つまり、"What"と"How"で役割を分離するのではなく、分けるとしたら"Why"と"How"です。そして"What"はコラボレーション・スペースで協調的に導きだすというのがここでの考え方です。さらに言えばこれは、Scrumの実践だけでなく、要求開発アライアンスの提唱するOpenthologyにおけるコタツモデルのメタファーにも通じるものであると考えます。

「第2回 エンタープライズ・クラウドの現在」に参加してきました

普段どちらかと言えばITを利用する側の立場、あるいはプロジェクト運営やプロセスの視点で世の中を見ているのですが、たまには技術のこともキャッチアップしておかねば…ということで、昨日(2012.2.2)「第2回 エンタープライズクラウドの現在」に参加して少しお勉強してきました。

講演1 「クラウドフェデレーションサービスの動向と課題」

登壇者: 荒井康宏 (クラウド利用促進機構 理事/オープンクラウドキャンパス)

講演2:「Java EE の現状からクラウド(PaaS)対応への進化について」

登壇者:寺田佳央 (日本オラクル株式会社 シニア Java エバンジェリスト)

講演3 「クラウド上のサービス開発の新しい動向 -- JavaEE7とPlay2.0 -- 」

登壇者 丸山不二夫 (クラウド研究会)

全体を通して思ったのは、ベンダーやSIerなどの情報システムの提供側としてこれらの技術を押さえておくことは当然として、情報システムの利用側(いわゆるユーザ企業の情シス部門に限らず経営陣も)のリテラシーを高めておくことが極めて重要であろうということです。これ、ほんとに重要。

まずは荒井さんの講演で、プライベートクラウド/パブリッククラウド/ハイブリッドクラウドなどについてざっとおさらい。それから、クラウドサービスごとのSLA、サービス仕様の違いをどうやって克服するか、基盤の統合とかAPIレベルでの統合、そしてクラウドフェデレーションなどのお話。ふむふむ。

2番目の寺田さんの講演は、Java EEの話。Java EEは5からかなり「楽」になった。そして今はJava EE 6。日本ではまだ6を使っているのは少数だが、世界ではどんどん使われている。これが現実。Java EE 7はクラウド対応(PaaS基盤としてのJava EE 7)。このあたりの動きについては自分では全然追っていなかったので、大変勉強になりました。

最後は丸山さんの講演。資料は以下からpdfをダウンロード可能になっています。

http://dl.dropbox.com/u/19096475/playjava.pdf

21世紀の最初の10年(2001-2011)に起きたこと、これは改めてふりかえってみるととても興味深い10年でした。9.11で始まり3.11に終わったこの10年。あぁ、あれもこれもたったこの10年の出来事なのね。そして2011年に起きたこと。とても印象深かったのは、

- 2010年には、クラウドクラウド・デバイスの両方を持っていたプレイヤーはGoogleのみ。

- それが今や、AppleMicrosoftAmazonも両方持つようになっている。

- そして、Facebookは???(Facebook携帯が出るという話も!?)

といった話。

この変化がエンタープライズに与える影響については、とりもなおさずユーザ企業の経営マターでもあるはず。もはや「わからない」では済まされないと思います。

あとは、Play 2.0の話も。ここも少し注目しておきたいところ。

なお、今年は4/4-5にJavaOne Tokyo 2012が開催される模様。そこでもクラウドに関連したセッションがたくさん組まれているようです。

Change Management 3.0

"Management 3.0"の著者であるJurgen Appelo氏によるChange Managementに関する良い資料がいくつかネット上で公開されていますので紹介したいと思います。 日本ではChangeと言えば"Fearless Change"というくらい、Linda Risingさんが大人気ですが、Jurgen Appelo氏がその"Fearless Change"をはじめ、"Leading Change""Influencer""Switch"などの書籍にインスパイアされて、変化を起こすために必要なことを、既存のよく知られたフレームワークを援用しながらメタモデルとしてまとめたものが"Change Management 3.0"であると私は理解しました。(合ってるかな?w) 全体的な枠組みとしてはとてもシンプルで、変化の4つの側面をそれぞれ以前からあるフレームワークを援用して説明する形がとられています。 Social Changeには4つの側面がある。
1. システムのことをよく考える 2. 個人のことをよく考える 3. 相互作用についてよく考える 4. 環境のことをよく考える
そして、それぞれを考える上で使えるフレームワークは以下の通り。
1. システム: Deming/ShewhartのPDCAサイクル 2. 個人: HiattのADKARモデル 3. 相互作用: RogersのAdoption Curveモデル 4. 環境: 5つのI (Five I's)
自分の周りに影響を及ぼし、変化を起こしていくためのプラクティスをこの枠組みに従って整理したものが"Change Management 3.0"です。このように、既に存在している考え方のフレームワーク(とても良いのだけど、ちょっと退屈)をうまく活用して、非常にわかりやすく役にたつ素晴らしいものに再構築しているところが彼の真骨頂でもあり、そのようなやり方を彼は"モヒート・メソッド(mojito method)"と呼んでいます。 で、ありがたいことに、その全体像のわかるプレゼンテーションがSlideshare上で公開されています。 そして、「プレゼン資料だけじゃわからんなぁ…説明を聴かないと…。」と嘆くことなかれ。なんと、彼がAgile Cambridge 2011で講演している動画が先日InfoQで公開されましたっ! InfoQ: How to Change the World さらにさらに(と、ここでテレビショッピング並みに畳み掛けていきますがw)、このプレゼンテーションの素晴らしい点の一つは、その変化を起こすチェンジ・エージェントとして振る舞う人が常に自問自答しながら考えるべき「質問」が豊富に挙げられていることなのですが、それらがまとめて下記のサイトから無料ダウンロードできるようになっているのです。(Management 3.0の研修資料の一部とのこと。ありがたや。) Change Management Questions そのpdf資料では、個々の「質問」がChange Management 3.0のフレームワークの中のどこに対応しているかというのは当然のことながら、前述の"Fearless Change"などの中で対応するプラクティスとのリンクも記述されているのが素晴らしい!"Fearless Change"やLinda Risingのファンにとっては垂涎モノですね♪ というわけで、これだけのものがタダで観たり読んだりできるのですから、みんなチェックしたらいいと思いますよ。もちろん全部英語ですけど。

Scrum GalleryはScrumの「心」

Tobias Mayer氏が、"Scrum Gallery"というドキュメントをGoogle docs上でpdf形式で公開しています。その背景など簡単に説明したTumblerがこちら。 私の過去のプレゼン資料などを見ていただいてもわかりますが、私自身、初心者にScrumのことを説明する時には、必ず彼の言葉を引用して説明するようにしています。それは、すなわち、

Scrum is a framework for surfacing organizational dysfunction. (Scrumは組織の機能不全を明るみに出すためのフレームワークである。) 〜 出典:"Scrum doesn't do anything" (Oct.11, 2009 Tobias Mayer)〜

というものです。 この点を理解できるかどうかで、Scrumに対する認識や理解というものは大きく変わってくると思います。そういう意味では、Scrum以外の周辺領域(Lean、Kanban、その他諸々)をとりあえず置いといて、ことScrumそのものに関して言えば、彼は、その理念や「心」の部分をきちんと伝えようとしている人であると私は考えています。 さて、そんな彼がScrumの重要な概念を53枚のビジュアル・デッキにまとめたのがこのScrum Galleryです。一言で言って、Excellentです。素晴らしいです。1枚1枚のカードに書かれたフレーズが胸に染み渡ります。Scrum初学者だけでなく、既に実践している方々にも是非見ていただきたい内容です。 特に私が好きなカードは、彼がTumbler上でも取り上げているこれ。

Scrum will help you fail in 30 days or less. 

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これはKen Schwaberの言葉ですが、まさに上で引用したTobiasの言葉にも通じるものです。Scrum自体は何か問題を解決してくれるわけではありません。ただ、問題を表面化してくれること、そしてそれが長くとも1スプリントの間できちんと明るみにでることが重要なのです。そして、それを解決するのはそれぞれのチーム自身なのです。

### 2012.1.31追記 ###

Scrum Galleryがpdfだけじゃなくてkeynoteおよびpowerpoint形式でも公開されました!

http://agileanarchy.tumblr.com/post/16791922959/scrum-gallery-source-files

ソーシャルメディアに関する法律の予測記事

前回のエントリーソーシャルメディアの予測記事に少し触れました。その時にはまだ出ていなかったのですが、法律面でのインパクトに関しての予測記事が出てきていますので簡単にご紹介します。 5 Predictions for Social Media Law 2012 http://mashable.com/2012/01/05/social-media-legal-predictions/ この記事の中では、次の5つのポイントが2012年の予測として挙げられています。 1. Facebook Litigation Brings New Attention to the Right of Publicity 2. Better Guidance on “Concerted Activity” 3. Standardized Privacy Rules 4. More Use of Social Media Evidence in Courts 5. No Brightlines to Govern Students’ Use of Social Media それぞれの詳しい内容については記事をご参照ください。 今後この分野においては、ソーシャルメディアの提供企業、それを活用する企業・団体、そして個人ユーザーの一人一人が、今まで以上にその法律的な側面にも関心を持ち、適切な利用を心がけていく必要がありそうです。