Agile Requirementsと「実施可能要件」
Agile TransformationのGolden Circle
"What"と"How"の分離の罠とコラボレーション・スペース
みなさんも今まで、戦略などについてロジカルに考えさせられる研修で「WhatとHowを分けて考えなさい」と言われたり、ビジネスの現場で「うちにはHowを語れるやつは多いけどWhatを語れるやつがいない」とか聞かされたことがあるのではないかと思います。また、Scrumの世界においても、「Whatを決めるのがプロダクトオーナーでHowを決めるのがチームである」というようなことが言われることもあります。 確かに、その考え方も一理あるのですが、現実を見ると、プロダクトオーナーだけでWhatが決められるケース(そんなプロダクトオーナーがいるケース)は少ないのではないでしょうか。また、特に高度なテクノロジー絡む場面においては、実装レベルのHowの知識がないと本当に価値のあるWhatが描けないということも増えてきています。 このあたりをどう考え、どう説明するのかについては、私自身もなかなかきれいに説明できていなかったのですが、Tobias Mayer氏が2011年のLondonでのScrum Gatheringのセッションで使った資料にちょうど良い部分がありましたので紹介しておきます。 資料のPDFは、以下のページで見ることができます。 "Dogma-free Scrum" by Tobias Mayer # 本稿で引用している図表は全て上記のPDFからの抜粋です。 この中で、彼は"Collaboration Space"の重要性を説いています。これは物理的な意味とメンタルな意味の両方を指しています。 まず、Scrumにおけるバックログのモデルとして、彼は以下のような構図を示しています。ここでは、プロダクトオーナーが"Who"と"What"と"Why"を決めてリクエストを行い、それに基づいてチームが"How"を決めてリクエストに応える…という形になっています。ある意味、これはWhatとHowの分離です。
しかし、これではプロダクトオーナーのリクエストはうまく伝わりません。そこで、彼はRequest/Response Modelで、Why-What-Howの三層構造を提示します。このモデルでは、リクエストする側は"Why"を徹底的にクリアにします。どういう理由で、誰のために、どんな価値が、…といったことをです。そして、それをもとにしてRequesterとResponder/sがコラボレーションスペースで協調的にWhatを導きだすわけです。
つまり、"What"と"How"で役割を分離するのではなく、分けるとしたら"Why"と"How"です。そして"What"はコラボレーション・スペースで協調的に導きだすというのがここでの考え方です。さらに言えばこれは、Scrumの実践だけでなく、要求開発アライアンスの提唱するOpenthologyにおけるコタツモデルのメタファーにも通じるものであると考えます。
「第2回 エンタープライズ・クラウドの現在」に参加してきました
普段どちらかと言えばITを利用する側の立場、あるいはプロジェクト運営やプロセスの視点で世の中を見ているのですが、たまには技術のこともキャッチアップしておかねば…ということで、昨日(2012.2.2)「第2回 エンタープライズ・クラウドの現在」に参加して少しお勉強してきました。
講演1 「クラウドフェデレーションサービスの動向と課題」
登壇者: 荒井康宏 (クラウド利用促進機構 理事/オープンクラウドキャンパス)
講演2:「Java EE の現状からクラウド(PaaS)対応への進化について」
登壇者:寺田佳央 (日本オラクル株式会社 シニア Java エバンジェリスト)
講演3 「クラウド上のサービス開発の新しい動向 -- JavaEE7とPlay2.0 -- 」
登壇者 丸山不二夫 (クラウド研究会)
全体を通して思ったのは、ベンダーやSIerなどの情報システムの提供側としてこれらの技術を押さえておくことは当然として、情報システムの利用側(いわゆるユーザ企業の情シス部門に限らず経営陣も)のリテラシーを高めておくことが極めて重要であろうということです。これ、ほんとに重要。
まずは荒井さんの講演で、プライベートクラウド/パブリッククラウド/ハイブリッドクラウドなどについてざっとおさらい。それから、クラウドサービスごとのSLA、サービス仕様の違いをどうやって克服するか、基盤の統合とかAPIレベルでの統合、そしてクラウドフェデレーションなどのお話。ふむふむ。
2番目の寺田さんの講演は、Java EEの話。Java EEは5からかなり「楽」になった。そして今はJava EE 6。日本ではまだ6を使っているのは少数だが、世界ではどんどん使われている。これが現実。Java EE 7はクラウド対応(PaaS基盤としてのJava EE 7)。このあたりの動きについては自分では全然追っていなかったので、大変勉強になりました。
最後は丸山さんの講演。資料は以下からpdfをダウンロード可能になっています。
http://dl.dropbox.com/u/19096475/playjava.pdf
21世紀の最初の10年(2001-2011)に起きたこと、これは改めてふりかえってみるととても興味深い10年でした。9.11で始まり3.11に終わったこの10年。あぁ、あれもこれもたったこの10年の出来事なのね。そして2011年に起きたこと。とても印象深かったのは、
- 2010年には、クラウドとクラウド・デバイスの両方を持っていたプレイヤーはGoogleのみ。
- それが今や、AppleもMicrosoftもAmazonも両方持つようになっている。
- そして、Facebookは???(Facebook携帯が出るという話も!?)
といった話。
この変化がエンタープライズに与える影響については、とりもなおさずユーザ企業の経営マターでもあるはず。もはや「わからない」では済まされないと思います。
あとは、Play 2.0の話も。ここも少し注目しておきたいところ。
なお、今年は4/4-5にJavaOne Tokyo 2012が開催される模様。そこでもクラウドに関連したセッションがたくさん組まれているようです。
Change Management 3.0
Scrum GalleryはScrumの「心」
Tobias Mayer氏が、"Scrum Gallery"というドキュメントをGoogle docs上でpdf形式で公開しています。その背景など簡単に説明したTumblerがこちら。 私の過去のプレゼン資料などを見ていただいてもわかりますが、私自身、初心者にScrumのことを説明する時には、必ず彼の言葉を引用して説明するようにしています。それは、すなわち、
Scrum is a framework for surfacing organizational dysfunction. (Scrumは組織の機能不全を明るみに出すためのフレームワークである。) 〜 出典:"Scrum doesn't do anything" (Oct.11, 2009 Tobias Mayer)〜
というものです。 この点を理解できるかどうかで、Scrumに対する認識や理解というものは大きく変わってくると思います。そういう意味では、Scrum以外の周辺領域(Lean、Kanban、その他諸々)をとりあえず置いといて、ことScrumそのものに関して言えば、彼は、その理念や「心」の部分をきちんと伝えようとしている人であると私は考えています。 さて、そんな彼がScrumの重要な概念を53枚のビジュアル・デッキにまとめたのがこのScrum Galleryです。一言で言って、Excellentです。素晴らしいです。1枚1枚のカードに書かれたフレーズが胸に染み渡ります。Scrum初学者だけでなく、既に実践している方々にも是非見ていただきたい内容です。 特に私が好きなカードは、彼がTumbler上でも取り上げているこれ。
Scrum will help you fail in 30 days or less.
これはKen Schwaberの言葉ですが、まさに上で引用したTobiasの言葉にも通じるものです。Scrum自体は何か問題を解決してくれるわけではありません。ただ、問題を表面化してくれること、そしてそれが長くとも1スプリントの間できちんと明るみにでることが重要なのです。そして、それを解決するのはそれぞれのチーム自身なのです。
### 2012.1.31追記 ###
Scrum Galleryがpdfだけじゃなくてkeynoteおよびpowerpoint形式でも公開されました!
http://agileanarchy.tumblr.com/post/16791922959/scrum-gallery-source-files